FDR ing

flying disc radioのWebマガジン

居酒屋ガイドI.D.N.さん

約 12 分

今回は居酒屋ガイドとして海外からの旅行者をサポートするI.D.N.さんを取材させていただきました。

居酒屋を海外の人が楽しむにはハードルが高い。
そこにスポットを当てた新しい取り組み。
経緯や描いている世界を探っていきたいと思います。

7月も終わりの頃、ジメジメと本格的な夏が始まった日。
新宿の繁華街を抜けて、明治通りを越して歩くと、左側に三番街商店会という小さな商店街があります。
そこに、どこか懐かしくて、それでいて時代とは関係のない店構えでもある「カフェ アルル」があります。
少し待つと今回の取材に応えてくれるI.D.N.さんが到着しました。

中にはアンティークな雑貨が並ぶ

鈴木:こんにちは。
オーダーはどうします?

I.D.N.:こんにちは。
カレーオムライスが有名みたいです、でも今日はドリンクだけにします。

鈴木:カレーオムライス!?ではオムライスで。
まずは、なぜこの取り組みを始めたのですか?キッカケからそれまでの経緯をお聞きしたいです。

席に座るとナッツとバナナのサービスが嬉しい

I.D.N.:最初は広告業界を転々としておりました。
三年が経った時に転職を決心。
でも、面接や人間関係をやり直すのは少し抵抗があるなと思いつつ、浅草にあるライター屋さんに入社。
入ってすぐに世の中では子供のライターの事故が多発していたこともあり、販売に影響が出ていました。
そんな中でも、何とか売ることを考えて成績をのばしましたが、それでも会社全体の売り上げは下がり、とうとう嫁の給料を下回るようになりました。

鈴木:それは深刻ですよね。

店内では二匹の看板猫がこちらの様子を伺っている

I.D.N.:そうして仕事に悩んでいた頃。
将来への不安があり、手に職をつけたいと強く思ったんです。
そしたら、ちょうど身近な友人に製麺屋の方がいて、その職になることを決めました。
早速、その会社の社長に会うことに。
そこで麺を認知させる施策として、思い描いていた「海外で製麺工場を作る」といったアイデアを話したところ、快く共感を得ることができました。
入社し、3年ほど経験を積んだ頃にたまたまニューヨークでカメラマンをやっている中学生の頃の友人から連絡があり、帰省のタイミングで食事をすることになりました。
再会し、懐かしい話や生活の変化など色々と会話は弾みました。
その時に友人のアイデアで海外への進出の一歩として、ポートランドで100年続く豆腐屋を継がないかと誘われました。

鈴木:急変しますね。笑

I.D.N.:そうなんです、でも!アポをとって話は進んだのですが、その豆腐屋は閉めてしまうことに。
そんなこともあって、友人が気を利かせてくれたのか、レディングの田舎(レディングはサンフランシスコから飛行機で一時間北上した場所。そこから更に田舎)のダイニングバー&カフェで働かないかと話をいただきました。
それは年に4ヶ月だけ季節労働者で賑わう地域でのお仕事でした。
この時に、麺を作ってあげたら興味を持ってもらえるかと考え、直ぐに了承しました。

カレーオムライスと間違えたが、これはこれで美味しい

鈴木:やっと描いてた夢が叶いますね!
I.D.N.:そうでしたね!現地に着くとラーメンの丼が積んであり、さあ!ラーメン作ってと無茶ぶり。笑
「俺、ラーメンなんて作れない」と言ったんですが、仕方ない!やるしかないと思い、ネットで作り方をひたすら調べました。
材料も把握し、買い付けに。
ヘイフォーク(ビッグフットの町である)から車で一時間行った町、レディングのスーパーへ到着。
いざスーパーをのぞくと目当ての材料は何にもなく。
料理酒やゴマすらないわけで。
町中のお店を回りました。
そうしてようやく素材の代用も重ねてラーメンが作れる状態に。

鈴木:それはたいへんですね!麺は?

I.D.N.:煮卵、チャーシュー、スープまで作りました。
もうヘトヘト!その時点で麺を作ってたら、開店に間に合わない、仕方なく中華三昧の麺だけを使いました。
それで何とか提供できましたね!
でもそれが不思議と売れて20杯。

鈴木:売れましたね!!

I.D.N.:それを機にオーナーからもっと売って欲しいと言われ、他も開発することに。
周りがよく食べるものを考えると、ラップサンドとトマトスープがメインだと思い、これらを取り入れれば売れる!
そう見込んで、アレンジを加えたトマトスープベースでラーメンを作ることにしました。

鈴木:どんなアレンジですか?

I.D.N.:トマトスープにバターとニンニクでソテーしたエビを加えました。
これが売れた!売れすぎたので、月、水、金の限定メニューとなりました。
その他は生姜焼き定食を出したりと、バリエーションとニーズが少しづつ見えてきました。
そんなある日、面白いニュースが舞い込みました。
それは、友人からの電話で、もしかしてガーリックシュリンプバターの何とかラーメン作ってる?
と聞かれ、作ってるよ!と、答えると4ツ星をとってる事を知りました。笑
店の誰かが仕組んだのか?とか色々確認しましたが、誰も知らず。
認められた気がして、それは、やりがいを感じた瞬間でした。

鈴木:4ツ星シェフですね!
その他にも評判の良かったメニューはありますか?

I.D.N.:笑。そうなんです!その他はジンジャーチキンかな!
最初のメニューは豚の生姜焼きだったけど、鳥の方がよく食べられているので鳥に変更したら、爆発的に売れましたね!

あと、そこでは毎週ライヴをやっていて、「KOOL KEITH」というラッパーがたまたまライブ前にレストランへ寄って、ジンジャーチキンをオーダーしてくれたんですよね。
本当に美味しかったらしく、2枚を平らげました。
ライブの後もお店に来てさらに2枚!完食。
また次の日も2枚オーダー!テイクアウトまでしてくれました。
嬉しくて、厨房で写真まで撮っちゃいました。
Tシャツにもらったサインにはトップシェフと書かれていました。笑

鈴木:素晴しい!高評で良かったですね。
サインには確かにTOPシェフ!認められましたね。

I.D.N.:そうして3ヶ月がすぎ、帰る時がきました。
最後は現地の陶芸教室で焼いた陶器をスタッフそれぞれに思い出としてプレゼントしました。
帰りの経由はラーメンブーム真っ只中のトロントを寄って日本へ帰ることにしました。
その当時のチケットは500$で格安でしたね!
日本へ帰ってから少し経つと。
知り合ったサンフランシスコの友人が日本へ旅行にくることに、そこでガイドをすることになりました。
観光の案内はしたことがなく、できることは何かと考え。
そこで自分が日本のことでリアルを伝えられること、それが居酒屋だったんです。
当然、観光地ではないので、観光客は他にいなく、ただ歩いているだけで発見があるようで。
あ!保育園があるとか桜がこんなところにとか、それだけで喜んでくれる。
あと、それをビール片手に歩いたり、これは海外ではできないので楽しいようです。
この時ですね。喜んでいる彼らを見て、これは仕事になるかもしれないと思えたんです。
これが居酒屋ガイドのキッカケですね。

鈴木:なるほど、繋がりましたね!
ちなみに、この名刺のIDNとは何ですか?

I.D.N.:インターナショナルデリバリーヌードルで。
または、いつもどこかで飲んでる。笑

鈴木:笑!今でも麺屋さんですもんね!
協力者はいるんですか?

I.D.N.:何だか、面白いもんで。
この取り組みをしていると、いろんな人たちが力を貸してくれるんです。
昨日もそろそろロゴ作らないとか声をいただいたり。
そろそろサイトも完成する予定です。

鈴木:それは心強いですね!
ガイドを依頼される時、どんな要望があるんですかね?

I.D.N.:行きたいところと言うよりも、何が食べたいとか、何が食べてはいけないとかが多いですかね。
特に「何が食べてはいけない」は調味料でも関係するので、難しい問題ですよね。
ちなみに、初めての依頼者はヴィーガンの人でした。
居酒屋だと煮た野菜くらいしかなくて。
何日間か過ぎてから、浅草にヴィーガン食堂があることを知り、そこへ連れて行きました。
そしたら、我慢していたらしく、もりもり平らげてましたね。笑

鈴木:それは難しいですよね。
同じものが食べられないとなると、直ぐに合わせるのはたいへんですよね!
でも解決して良かった。
依頼はどんな連絡できますか?

I.D.N.:メールや以前に利用してくれた方の知り合いなどから。

その他にはナンパスタイルもあります。笑
前に居酒屋に友人といたときです。
外国人旅行者の男女が入ってきたんです。
気になって見ていると、メニューを見ているだけで困っているようにも見えました。
そこで、声をかけてみることにしました。
聞いてみるとメニューに写真がなく、何をした料理なのか、わからないようでした。
あと和食が食べたいのに中華料理屋さんにいることもわかっていなかった。
なので名刺と紹介サイトなどの説明をして、営業してみたんです。
そしたら、ガイドすることに。
これも喜んでくれて、結局、二日間ガイドをしました。

鈴木:料金設定などの設定はありますか?

I.D.N.:外国人にとって自国の外食の値段は本当に高い設定のようです。
自分が経験したのは、サンフランシスコのインドカレー屋さん三人でビール2杯とカレーセット3つそれで9000円以上かかりました。
だから、2軒回るプランで、1軒の設定は飲み物2杯とおつまみ3品までという決まりにしました。
そしてガイドの私分もいただきます。
それで合計で1万円でお受けしてます。
今の所、金額は高いと言う声はなく、むしろ安く感じていただいているようです。
当然、売り上げは、ほとんどありませんが。

鈴木:それでしたら、メリットも明確だし、金額は確かに安く感じますよね!

I.D.N.:3品は自信のあるこだわったものをオーダーします。
ただ「日本酒は高いからあまり飲まないでね」とも説明します。笑
あと日本人はビール以外に独自の飲み物、チューハイがある。
これを特に勧めますね。
するとこれを初めてのむ人が多く、飲みやすくて喜んでくれるんです。

鈴木:日本では確かにビールは挨拶のようなもので1杯目のイメージですよね。
この取り組みをお聞きしていると、居酒屋ガイドをしたくてこうなったのではなく、I.D.N.さんのバッググラウンドがそうさせたようで、興味深いですね。
普段は1人で居酒屋へ行くんですか?

I.D.N.:一人で行きますね!連れて数人で行くと、出ずらかったり、悪い気がして。
だから気楽に1人が多いですね。

鈴木:すごい!チャレンジャーですね!
抵抗がある居酒屋はありますか?あとは美味しいお店の見方は?

I.D.N.:それはね、あるよね!それは入った瞬間にわかる。
メニューはあるけど、どれも品切れな店、やる気を感じない、せこい所が見えるんです。
これがヤバイ店の条件かな。
あと自分の場合1杯目でチューハイなら少し長くいようと思うとき、それ以外は瓶ビールかな。
瓶ビールにハズレはないし。
その反対に美味しい店の条件は常連さんらしき人が2品以上料理を食べながら飲んでいる。
これは間違いなし。しかも飲み物が酎ハイなら尚、信用できる。
いつもいる常連が2品食べるなんてないからね!

鈴木:なるほど!それは確かに!
この取り組みをして何を伝えたいですか?

I.D.N.:そこまでは考えてないですね!
ただ日本を知って楽しんでほしい。本当に良い知識を旅行者へ共有したい。
ただそれだけなんです。
つい最近飲食店にてこのガイドの本質として気づかされることがあったんです。

スウェーデンから来た人たちが、たまたま隣で食べていて、英語のメニューを見ていてるのにオーダーをしないんです。
気になって、尋ねて見たら、読めないらしい。
英語で書いてあるけど、これが何の食べ物かわからなかったんです。
なるほど!と思って、イメージを翻訳してあげたら喜んでくれた。
そして鳥軟骨の料理を頼んだら美味しかったみたい!
でもメニューを見て「ソフトボーン何ちゃら」確かにイメージできないですよね。
あと、日本人はおそらく、外国人に対して、ほとんど敵対心は持ってないと思うんです。
最近も友人3人で飲んでた時、お店の奥の方をみると。
やっぱり何も頼めていない外国人がいて、声をかけたら、周りの人たちも歩み寄って色々勧めて来たんです。
結局、みんな話したがってたんだなと感じましたね。

鈴木:居酒屋って、ただ単にお酒を飲んで食べ物を食べるだけが楽しみじゃないですもんね。
一つのコミュニティーのようにも思えます。
良い出来事ですよね!

店の看板猫も参加

鈴木:いろいろ居酒屋ガイドについてお聞きできたので、このWEBマガのテーマでもある今度は旅での思い出をお聞かせください。

I.D.N.:サンフランシスコでの出来事かな、税関で引き止められまして。
取り調べの対象者に、税関の奥の部屋でただ座って待つという事態に。
周りは犯罪者だらけ。どこへなぜ行くんだ?仕事はなんだ?とひたすら聞かれて、何故か怪しまれてました。
気がつけば、係も引き継ぎ交代するくらい。
やっとそこを出たら7時間が経ってました。
ビックリしたけど、時間を返せと思いました。
だけど、後でわかったけど目的地の場所の産業は世界で3大産地のマリファナの産地だったんです。
あとは経由して行く空港で時差の関係で乗り遅れがあったり。
もっと驚いたのはテキサス経由でトロントへ行くときかな。
サンフランシスコでビザは取ったかと聞かれ、必要ないと思って、そのままカナダ行きに乗ったけど。
急遽法律が変わっていたらしく、カナダのビザが必要なことを知り。
経由する飛行機に乗れなかったんですね。
それで、困ってパニックになっていると、空港の係りの人が助けてくれたんですね。
ビザは5分くらいで取れて、航空会社のフロントで新しい便に乗ることができました。

鈴木:解決して良かったですね!まさかの産地。笑
ありがとうございました。取材はこれまでです。

いかがでしたでしょうか?
キッカケは沢山の経験の中にある。
居酒屋ガイドを自然に始めたところにI.D.N.さんのサプライズする気持ちが伝わって来ました。
自分自身も、ふらっと足を運ぶ場所なので、今度、外国人がいたら少しサポートしてあげたくもなりました。
そういった気持ちを出せる場所として日本の居酒屋が今後も旅行者に定着すればいいですね。

I.D.N. a.k.a. Kanpai Japan
オフィシャルホームページも作成中とのこと。
他のwebマガジンでも連載がはじまっているようです。
気になった方はチェックして見てはいかがでしょうか?

Webマガ パヤパヤ
https://paya-paya.com/column/1639

facebook
https://www.facebook.com/yutaka.miyao

instagram
https://www.instagram.com/a.k.a._kanpai_japan/?hl=ja

今回のカフェはこちら
カフェ アルル
住所:東京都新宿区新宿5-10-8
TEL:03-3356-0003 営業時間:11:30~22:00(21:30 L.O)
定休日:無休(年始は休みの場合があります)
https://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13087540/

About The Author

Hirosada Suzuki
高円寺を拠点に活動し発信する
人間好きなデザイナー
「未知と融合する楽しさ」を大切に
イベントやアートワークを展開

2012年からデザインを通じてアーティストを支援する。
PARODITCH ART WORKSを展開。
2013年からPRイベントFLYING DISC RADIOを開催
2015年にはFLYING DISC RADIO長野県の酒蔵「真澄」の松の間にて開催。
2017年よりFLYING DISC RADIOのWEBマガジンFDR ingを立ち上げる。

Leave A Reply

*
*
* (公開されません)